1. 世界メンタルヘルスデーとは
世界メンタルヘルスデーは、世界精神保健連盟(WFMH)が1992年に始めた、メンタルヘルスへの関心を高めるための国際的な啓発活動です。WHOもこの日に合わせて情報発信などを行っています。
日本でも厚生労働省が特設サイトを設け、普及啓発の取り組みを行っています。2026年のテーマは「つながる、どこでも、だれにでも」。こころの健康に欠かせない“人とのつながり”を大切にするという考え方が掲げられています。
このテーマは、職場を考えるうえでも示唆的です。働く時間の多くを過ごす職場に、安心して関われるつながりがあるかどうかは、社員のこころの状態に少なからず影響します。
10月10日を、職場で何かを始めるきっかけにする
世界メンタルヘルスデーには、全国でさまざまな取り組みが行われています。
厚生労働省の特設サイトでは、東京タワーや京都タワーなどのモニュメントをシンボルカラーにライトアップする取り組みや、自治体によるポスター掲示などが紹介されています。
企業でも、この日をきっかけに何かを始めることはできます。大がかりな施策である必要はなく、社内報やチャットでメンタルヘルスについて触れる、管理職向けに気づきのポイントを共有する、いつもより一言多く声をかけてみるといった取り組みが挙げられます。
小さな行動でも、こころの健康を話題にしてよいという空気をつくることにつながります。
大切なのは、この日だけで終わらせないことです。10月10日を、日常の関わりを見直す出発点として使うという捉え方もできます。
参考:
世界メンタルヘルスデーJAPAN2026特設サイト|厚生労働省
2. 職場のメンタルヘルス対策と、働く人のストレスの実態
職場のメンタルヘルス対策は、着実に広がっています。ただ、データを見ると、対策の広がりと社員の状態が必ずしも一致していないことが分かります。
94.8%が「相談できる人がいる」と回答
厚生労働省の令和7年(2025年)労働安全衛生調査によると、仕事や職業生活に関する不安、悩み、ストレスについて「相談できる人がいる」と答えた労働者は94.8%にのぼりました。
相談先を持たない人のほうが、いまや少数派です。
約7割の労働者が強いストレスを感じている
同じ調査で、現在の仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み、ストレスがあると回答した労働者は67.5%でした。
また、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合は63.0%と、6割を超えています。
これらは別々の集計のため、数字を直接比較することはできません。ただ、相談できる人がいる労働者は9割を超え、メンタルヘルス対策に取り組む事業所も6割を超えています。それでも、約7割の労働者が強いストレスを抱えているのが現状です。
相談先や制度を整えるだけでは、働く人のストレス軽減につながるとは限らないことがうかがえます。
相談窓口は重要な支援の一つですが、相談という行動が起こるのを待つだけでは、日常の小さな変化や職場の関係性まで捉えきれないことがあります。
日々の働き方や職場の関係性そのものを整えるには、別の視点が必要になります。
参考:
令和7年 労働安全衛生調査(実態調査)|厚生労働省
3. 職場のウェルビーイングとは?メンタルヘルス対策との違い
職場のメンタルヘルス対策では、不調の未然防止や早期発見、適切な対応、職場復帰支援など、働く人のこころの健康を守るための取り組みが行われます。
一方、ウェルビーイングは、心身の健康に加えて、人とのつながりや働きがいなども含め、より広く「良い状態」に目を向ける考え方です。
WHO憲章では、健康を「身体的、精神的、社会的に良好な状態」と捉えており、単に病気や不調がないことだけを健康とはしていません。
職場のウェルビーイングを考える際も、不調を予防・支援することに加えて、働く人が前向きに働けているか、人とのつながりを感じられているかといった視点を持つことが大切です。
「健康に気をつけるように、幸せにも気をつける」
幸福学の第一人者である前野隆司教授は、当社のインタビューで「健康に気をつけるように、幸せにも気をつける」という考え方を語っています。
健康診断のように、自分の幸福度を定期的にチェックし、いまの状態を知ることが大切だという発想です。
この考え方は、組織にも当てはまります。不調の兆しを見つけることと同じように、働く人がどのような状態にあるのかを定期的に見つめることが、職場のウェルビーイングを考える出発点になります。
職場で考えたい「ありがとう因子」
前野教授は、日本人約1,500人を対象とした調査の因子分析から「幸せの4つの因子」を導き出しています。
やってみよう因子(自己実現と成長)、ありがとう因子(つながりと感謝)、なんとかなる因子(前向きと楽観)、ありのままに因子(独立と自分らしさ)の4つです。
このうち、今回特に注目したいのが「ありがとう因子」です。
職場は、人と人が関わりながら成果を生み出す場です。日々の会話や挨拶、感謝のやり取りがあるかどうかは、そこで働く人の安心感や前向きさに影響します。
前野教授も、職場における会話量や挨拶・感謝の積み重ねが、お互いの幸福度を高めていくと指摘しています。
世界メンタルヘルスデー2026のテーマである「つながる、どこでも、だれにでも」とも重なる視点です。
関連記事:
「健康に気をつけるように、幸せにも気をつける」幸福学の第一人者・前野隆司教授が語る、ウェルビーイングの本質
4. 相談しやすい職場をつくる、日常の関わり
先に見たように、相談できる人がいると答えた人は94.8%にのぼります。それなら、不調を感じたときには相談されているはずではないかと考えられますが、実際はどうなのでしょうか。
不調時に職場へ相談する人は、2人に1人
別の調査を見てみましょう。パーソル総合研究所が2024年12月に公表した調査によると、治療なしでは日常生活が困難なレベルのメンタルヘルス不調を経験した人のうち、職場内で相談・報告した人は46.1%でした。上司へ相談した人は30.6%にとどまります。
それだけつらい状態であっても、およそ2人に1人しか職場には相談していないということです。
背景にあるのは、相談することへの心理的な抵抗感です。同じ調査では、不調経験者の62.8%が職場への相談に抵抗感を持っていたとされ、20代では68.0%とさらに高くなっています。
相談しなかった理由として最も多かったのは「相談しても解決につながらないと思った」でした。
つまり、相談先があることと、実際に相談できることは別の問題です。窓口を増やしても、相談へのためらいが解けなければ利用にはつながりません。
ここに、対策と実態のずれが生まれる理由の一つがあります。
「相談するほどではない」段階に目を向ける
相談という行為には、一定の覚悟が必要です。自分の状態を言葉にして、時間を取ってもらい、評価への影響も気にしながら伝える。不調のときほど、その負荷は重くなります。
一方で、不調が深刻になる前に、「なんとなく気が重い」「最近うまくいかない」といった小さな変化が現れることもあります。
相談するほどではないと感じる段階で誰かと言葉を交わせていれば、状態が深まる前に周囲が気づける可能性があります。
職場のウェルビーイングを考えるうえで見直したいのは、この「相談される前」の時間です。改まった面談の場ではなく、日常のなかにどれだけ言葉のやり取りがあるか。ここが、制度では届きにくい領域になります。
雑談や声かけが、相談の手前を支える
特別な仕組みは必要ありません。おはようと声をかける、最近どうかと一言聞く、手伝ってもらったら感謝を伝える。
こうした日常的なやり取りは、何かあったときに話しかけやすい関係をつくる一つのきっかけになり得ます。
前野教授が示すありがとう因子が職場で意味を持つのも、この点にあります。感謝やつながりは、気持ちの問題にとどまりません。日々の関わりを積み重ねることは、いざというときに相談できる関係づくりを考えるうえで、重要な視点の一つです。
リモートワークや拠点の分散が進んだ職場では、こうしたやり取りが意識しなければ生まれにくくなります。短いチェックインの時間を設ける、雑談が生まれる場をつくるなど、関わりの機会を意図的に用意することが必要になります。
気づける状態を、個人の力量に任せない
不調のサインに気づくことは重要ですが、これを管理職個人の観察力に委ねると、負担が偏り、見落としも生じます。
誰がどのような状態にあるのかを、複数の目で見ていける状態をつくることが、現実的な対応になります。
組織の状態を定期的に確認する仕組みを持つこと、そして日々の関わりが見える状態にしておくこと。この二つがそろうと、個人の勘ではなく、組織として気づけるようになります。
参考:
若手従業員のメンタルヘルス不調についての定量調査|パーソル総合研究所
5. 組織の状態を把握し、感謝が循環する仕組みをつくる
職場のウェルビーイングを高めるには、組織の状態を把握することと、日々の行動を変えていくことの両方が必要です。どちらか一方だけでは、状況は変わりにくくなります。
デジタルサンクスカード「GRATICA(グラティカ)」は、社員同士が感謝を伝え合う仕組みに加えて、月1回の組織サーベイ機能を備えています。
このサーベイは、前野隆司教授の監修のもと、幸福学の知見をベースに設計されています。
月1回・5問のシンプルなアンケートで組織の状態を定点観測し、その結果とサンクスカードのやり取りを組み合わせることで、いま組織のどこに強みがあり、どこに課題があるのかを図として把握できます。
さらに、結果に応じて次に取り組むとよい行動が提示されるため、日々の感謝を起点に改善へつなげられます。
感謝のやり取りが記録として残ることで、組織の中でどのような関わりが生まれているのかを振り返る材料にもなります。
状態を「測る」ことと、感謝を「動かす」ことを組み合わせることは、職場のウェルビーイングを高めるための取り組みの一つといえます。
関連記事:
ウェルビーイング経営とは?「測る」と「動かす」で感謝が満ちる組織を目指す|GRATICA
6. まとめ
世界メンタルヘルスデーは、こころの健康について考える国際デーです。
2026年のテーマ「つながる、どこでも、だれにでも」が示すように、人とのつながりはこころの健康を支える要素の一つです。
職場では相談窓口やストレスチェックといった対策が広がる一方で、強いストレスを感じる労働者は7割近くにのぼります。
実際に不調を感じたときに職場へ相談する人は2人に1人にとどまり、相談先があることと相談できることは別の問題であることも見えてきました。
だからこそ、相談される前の日常に目を向けることが手がかりになります。雑談や声かけ、感謝のやり取りといった日常の関わりは、いざというときに話しかけやすい関係をつくる一つのきっかけになり得ます。
特別なことではなく、日常の関わりの積み重ねが、働く人の安心感を支えます。
世界メンタルヘルスデーをきっかけに、自社の職場にどのようなつながりが流れているのかを見つめ直してみてはいかがでしょうか。