1. なぜいま「組織のウェルビーイング」なのか
ウェルビーイングが経営の文脈で語られるようになった背景には、世界と日本の双方で進む制度的な動きがあります。
ウェルビーイング(Well-being)は、もともと1946年の世界保健機関(WHO)憲章で「健康」を定義する際に使われた言葉です。
「肉体的、精神的及び社会的に完全に良好な状態」を指す概念として、近年、経営の文脈で大きく注目されるようになりました。
背景にあるのは、人的資本経営の進展と考えられます。
経済産業省が2022年に公表した「人材版伊藤レポート2.0」では、経営者・CHROが「社員の健康状況を把握し、継続的に改善する取り組みを、個人と組織のパフォーマンス向上に向けた重要な投資として捉えること」が示されています。また、その中で、社員のウェルビーイングを高める視点を取り込むことにも言及されています。
また、2023年からは有価証券報告書での人的資本情報開示も義務化され、社員の健康やエンゲージメントは、企業を評価するうえでも重要な指標になりつつあります。
さらに2024年12月には、日本主導で開発されたウェルビーイング推進のための国際規格「ISO
25554:2024」が発行されました。地域や企業がウェルビーイングを推進するためのガイドラインとして位置づけられており、ウェルビーイング経営は世界共通の指針を持つ段階へと進みつつあります。
しかし、ここで多くの企業がつまずきます。
「ウェルビーイング」という言葉のあいまいさです。福利厚生を手厚くすれば実現できるのか。ストレスチェックで測れば十分なのか。
本質的な問いに答えないまま、表面的な施策を積み重ねても組織は思うように変わりません。
この問いに答えるのが、幸福学の知見です。
参考:経済産業省「人材版伊藤レポート2.0」
参考:経済産業省「これからの健康経営について」(2025年4月)
2. 「健康に気をつけるように、幸せにも気をつける」── 幸福学が示す組織のウェルビーイング
組織のウェルビーイングを考えるうえで、参照すべき体系的な知見があります。前野隆司教授が提唱する「幸福学」です。
前野教授は当社のインタビューで、「健康に気をつけるように、幸せにも気をつける」という考え方を語っています。
健康診断のように、自分の幸福度を定期的にチェックし、いまの状態を知ることが大切だという発想です。これは個人だけでなく、組織にも当てはまります。
組織もまた、働く人の状態や関係性を定期的に見つめることで、どこに強みがあり、どこに改善の余地があるのかを把握しやすくなります。
前野教授が日本人約1,500人を対象とした調査の因子分析によって導き出したのが、「幸せの4つの因子」です。
① やってみよう因子(自己実現と成長)
やりがいやワクワク感を持ち、新しいことに前向きに取り組めている状態。
② ありがとう因子(つながりと感謝)
感謝の気持ちを持ち、人とのつながりや利他の心、親切な振る舞いを大切にできている状態。
③ なんとかなる因子(前向きと楽観)
「なんとかなる」と前向き・楽観的に物事を捉えられる状態。笑顔で過ごせていること。
④ ありのままに因子(独立と自分らしさ)
他人と比較しすぎず、周囲に左右されすぎずに、自分らしさを大切にできている状態。
この4因子は、個人の幸福度を捉える視点であると同時に、組織の状態を見つめるうえでも重要な手がかりになります。
たとえば、社員が挑戦しやすい環境にあるか。前向きに仕事へ向き合えているか。自分らしさを発揮できているか。そして、職場の中に感謝やつながりがあるか。
なかでも職場のウェルビーイングを考えるうえでは、「ありがとう因子」が重要な意味を持ちます。職場は本質的に、人と人が関わりながら成果を生み出す場です。日々の会話や挨拶、感謝のやり取りがあるかどうかは、そこで働く人の安心感や前向きさに大きく影響します。
前野教授も、当社のインタビューの中で、職場における人との会話量や挨拶・感謝の積み重ねが、お互いの幸福度を高めていくと指摘しています。
関連記事:
「健康に気をつけるように、幸せにも気をつける」幸福学の第一人者・前野隆司教授が語る、ウェルビーイングの本質
3. 「測りっぱなし」では何も変わらない
ここで多くの企業がつまずくポイントがあります。「ウェルビーイングを高めるために、まず何をすべきか」という最初の一歩です。
結論から言えば、最初にすべきは「組織の状態を測ること」です。前野教授の言う「健康に気をつけるように、幸せにも気をつける」を、組織レベルで実践するということです。
定期的な健康診断を受けるのと同じように、組織のウェルビーイングにも、その状態を確認するための「健康診断」にあたるサーベイが必要なのです。
ただし、ここに落とし穴があります。「測りっぱなしになっている」ケースです。
年に1度の大規模なエンゲージメントサーベイを実施しても、結果が出る頃には組織の状況も変わっていたり、施策に活かしきれないまま次の調査が来てしまうというのが、多くの企業が経験している現実です。
特にリモートワークやハイブリッドワークが定着した現在、現場の空気は経営層からも、マネージャーからも見えにくくなっています。
組織の状態を継続的に把握することは、もはや経営の必須条件です。
近年、こうした課題への対応として注目されているのが、月1回など短いサイクルで定点観測するパルスサーベイです。
半年や1年に一度行う組織サーベイが「健康診断」だとすれば、パルスサーベイは毎日体重計に乗るようなもの。短いサイクルで定点観測を続けることで、変化の兆しを早く捉え、機を逃さずに打ち手を実行できます。
ただし、サーベイの設計には注意が必要です。何を測るかによって、見える景色がまったく変わります。
職場の表面的な満足度だけを測っても、組織の本質的な健全性は見えてきません。
「ウェルビーイングとは何か」という理論的な土台に基づいて設計されてはじめて、サーベイの結果は組織改善に活かせる情報になります。
前野教授は、組織サーベイの使い方についてもこう指摘しています。
自分の特徴に応じて、いいところを伸ばすというやり方にしたほうがいい。「各自、結果を見て自分と向き合ってください」という使い方なら、健康診断と同じように非常に有効です。
つまり、サーベイは「できていない部分を指摘するための道具」ではなく、「組織の特徴を知り、強みを伸ばすための健康チェック」として活用することが大切です。
4. 幸福学に基づいて設計された「GRATICA」の組織サーベイ
ここで、GRATICAの組織サーベイ機能をご紹介します。
GRATICAは、社員同士が「ありがとう」を伝え合うデジタルサンクスカードのサービスです。感謝・称賛・承認を通じて、組織内に良質な関係性を育てます。これに加えて、月1回の組織サーベイ機能も備えており、組織の状態を継続的に把握しながら、日々の感謝や承認の行動につなげられます。
このサーベイの最大の特徴は、前野隆司教授の監修のもと、幸福学の知見をベースに設計されていることです。
感謝・称賛・承認は、なぜ改善サイクルの起点になり得るのか。
それは、数値だけでは見えにくい「人と人との間で起きていること」を、行動の蓄積として可視化できるからです。
日々のサンクスカードのやり取りには、組織のどこに信頼が育ち、どこに分断が生じているかという、現場のリアルな情報が刻まれています。
この行動データと、アンケートで見える社員の状態を組み合わせることで、抽象的な組織の健全性が、具体的な次の一手へと変換されていきます。
まず、月1回・5問のシンプルなアンケートで組織の状態を定点観測することが可能です。社員にとって負担が少なく、継続できる設計だからこそ、組織の小さな変化を捉えやすくなります。
また、アンケートで見える社員の状態と、サンクスカードで見える感謝・承認のやり取りを組み合わせることで、組織の現状をウェルビーイング循環マップとして直感的に把握できます。
さらに、マップの結果に応じてアクションテンプレートが提示されるため、日々の感謝行動を起点に、無理なく改善アクションへつなげていけます。
つまり、GRATICAの組織サーベイは、
アンケートで組織の状態を「測る」、ウェルビーイング循環マップで状態を「見える化する」、アクションテンプレートで日々の行動を「動かす」という流れを支える仕組みです。
「測る」と「動かす」が一つのプラットフォーム上で連動することで、組織サーベイは単なる現状把握ツールではなく、改善サイクルを回す仕組みとして機能します。
サーベイ結果がきっかけを生み、テンプレートが最初の一歩を後押しすることで、人事任せにせず、現場のマネージャーやメンバー自身が動き出せるようになります。
結果、「調査して終わる組織」ではなく、“ありがとう”を起点に、現場の行動変化までつなげることが可能です。
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5. 感謝を「制度」ではなく「文化」にする
冒頭で紹介した、前野教授の言葉を思い出してください。
制度より先に「魂」を入れよ。
感謝という行為そのものを大切にし、自然に増やしていく仕組みでなければ、うまく機能しない。
前野教授はインタビューの中で、感謝をお金や換金ポイントと結びつけると、本質からズレていくと警鐘を鳴らしています。
「ありがとう」を伝える行為そのものに意味があり、それを「対価」にしてしまった瞬間に、感謝の意味そのものが変わってしまうのです。
GRATICAのサンクスカードは、この考え方とも重なる仕組みです。
社員同士がオンラインでサンクスカードを送り合うことで、感謝のやり取りが目に見える形で蓄積されていきます。
蓄積された行動データは、サーベイの定量的な結果と組み合わせることで、組織の改善ポイントを立体的に浮かび上がらせます。
「うちには感謝の文化がない」という組織でも、仕組みから入って、文化を育てていくことは可能です。文化を育てるには、仕組みと日々の実践の両方が必要です。
前野教授の言う「魂」とは、感謝という行為そのものを大切にする姿勢のこと。サンクスカードは、そうした感謝の実践を、日々の行動として組織に根づかせていくための仕組みです。
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6. まとめ
ウェルビーイング経営の本質は、幸福学に基づく理論的な土台のうえで、組織の状態を「測り」、日々の「ありがとう」で感謝・称賛・承認のやり取りを「動かす」ことにあります。
GRATICAは、前野隆司教授の監修による幸福学ベースの組織サーベイと、デジタルサンクスカードを一つのプラットフォームで提供しています。「測る」と「動かす」をワンセットで支えることで、形だけのウェルビーイング経営ではなく、文化として根づく組織づくりをサポートします。
「うちの組織には、どんな感謝が流れているだろうか」「社員は本当に幸せに働けているだろうか」といった問いに、データと日々の行動の両面から答えを出せる仕組みを持つことが、これからの組織づくりの出発点になります。