1. 猛暑の夏、チームの「働く場所」はばらつく
近年、夏の働き方への関心が高まっています。2025年6月には、一定の暑熱環境下で行う作業について、熱中症の重篤化を防ぐための報告体制の整備や、対応手順の作成・周知などが事業者に義務づけられました。
対象は、WBGT(暑さ指数)28度以上または気温31度以上の環境で、連続1時間以上または1日4時間を超えて行うことが見込まれる作業などとされています。
こうした法改正が直接対象とするのは、屋外や高温の現場での作業です。一方、オフィス中心の職場でも、暑さへの関心の高まりを背景に、気温の高い日に在宅勤務や時差出勤を自主的に取り入れる動きが見られます。
Job総研が2025年に行った「夏のはたらき方実態調査」(全国の20〜50代の就業者544人が対象)では、今夏の出社予定について74.6%が「出社派」でした。ただし、夏の理想の働き方をたずねると「出社したい派」48.0%、「テレワークしたい派」52.0%とほぼ半々で、出社予定者の多くは会社からの要請によるものでした。
テレワークを希望する理由では「外が暑いから」が67.8%で最も多く、出社を希望する理由では「涼しい環境が整っている」が39.5%で最も多くなっています。
夏はチームの働く場所が日によってばらつきやすくなります。
全員がオフィスにそろう日が減り、廊下やデスクで自然に生まれていた会話の機会が、不安定になりやすい。社内コミュニケーションにおいては、猛暑対策以上に、「顔を合わせない日が増える」ことに気をつけなければなりません。
参考:
2025年 夏のはたらき方実態調査(Job総研、2025年6月)
2. テレワークで減りやすい「雑談」と「感謝」
テレワークは、一定の割合で利用され続けている働き方です。
国土交通省の令和7年度の調査では、勤務先にテレワーク制度等が導入されている雇用型テレワーカーの割合は22.1%と示されています。
コロナ禍以降は減少が続いていましたが、直近の調査では増加に転じ、安定基調で推移していることが確認されています。
働く場所が分かれたとき、最初に影響を受けるのは、業務連絡ではなく、その前後にある何気ないやり取りです。業務連絡や会議はチャットやWeb会議で置き換えられますが、雑談や感謝のような目に見えづらいつながりは、そう簡単には置き換えられないからです。
テレワークの課題として繰り返し指摘されているのが、このコミュニケーションの問題です。
労働政策研究・研修機構(JILPT)が2024年にまとめた整理でも、テレワークの課題としては、コミュニケーションや、他の社員との不公平感、評価上の不安などが目立つとされています。
雑談も、テレワークで減りやすいことがわかっています。
コロナ禍初期にスコラ・コンサルトが2020年に行った調査では、テレワーク下では雑談がかなり減っており、雑談が、人やコトの状態把握や方向性のズレの修正といった役割を担っていたと報告されています。
こうした結果からも、単なる無駄話ではなく、職場の関係性や情報共有を支える役割を担っていたことがうかがえます。
さらに見逃せないのが「感謝」です。
リクルートマネジメントソリューションズの調査では、テレワーク環境で「感謝の言葉をかけたり、かけられたりする機会」が減った・やや減ったと感じる人が46.7%にのぼり、増えた・やや増えたと感じる人(16.7%)を大きく上回りました。
雑談やアイディアの共有、互いに気にかけ助け合う機会も、同じように減ったと感じる人のほうが多くなっています。
業務は回っているのに、「ありがとう」が交わされにくくなる。すると、誰がどんな貢献をしているかが互いに見えづらくなり、支え合いの空気が薄れていきます。
参考:
令和7年度 テレワーク人口実態調査(国土交通省)
テレワークの現状(ビジネス・レーバー・トレンド 2024年12月号/労働政策研究・研修機構)
「テレワーク下の雑談」に関する実態調査(スコラ・コンサルト、2020年)
テレワーク緊急実態調査(リクルートマネジメントソリューションズ、2020年)
3. ツールを入れれば解決、とはいかない理由
コミュニケーションが滞るなら、チャットやWeb会議ツールを導入すればよいのではないかと考えたくなりますが、ツールの導入だけでは十分ではありません。
ツールはあくまで、会話や感謝が生まれる「場」を用意するものです。ツールを導入するだけで、コミュニケーション上の課題がすべて解消されるとは限りません。
総務省がまとめた事例集でも、テレワークでは「声をかけづらいと感じることがある」という声がよく上がるとされています。
ツールという入れ物があっても、声をかけるきっかけや、かけてよいという空気がなければ、やり取りは生まれません。
だからこそ必要なのは、ツールに加えて、関わりが自然に生まれる仕掛けと、続ける習慣です。
参考:
テレワーク時におけるコミュニケーション・マネジメント面の課題解決等に関する先進事例集(総務省)
4. 夏の社内コミュニケーションを活性化する打ち手
抽象論では現場は動きません。働く場所がばらつく夏でも、そのまま使える打ち手に落とし込んでいきます。
定例の軽い接点を、短くつくる
朝会や短いチェックインの時間を、1日の始まりに設定します。
進捗の確認だけで終わらせず、「今日は在宅です」「昼から出社します」といった居場所の共有や、一言の近況を添えるだけで、離れていてもチームの状態が見えるようになります。
チームの負担にならない範囲で、定期的に続けることが大切です。
雑談の場を、意図的に設計する
テレワークでは、雑談は意識しなければ生まれません。雑談専用のチャットチャンネルをつくる、オンラインでランチや休憩の時間を設ける、会議の冒頭に数分の雑談を挟むなど、「場」を用意します。
無駄に見える雑談が、実は状態把握や関係のメンテナンスを担っていることを理解した上で、あえて自由な発言がしやすい場をつくる価値は十分にあります。
感謝や気づかいを、こまめに言葉にする
テレワークによって減りやすいもののひとつが、感謝のやり取りです。
手伝ってもらったら「助かった、ありがとう」、フォローしてくれたら「おかげさまで進めることができました」と、その場で、具体的に伝える。対面なら表情や雰囲気で伝わっていたものが、離れていると言葉にしない限り伝わりません。
小さな一言の積み重ねが、支え合いの空気を保ちます。
相談のハードルを、下げておく
「声をかけづらい」を放置しないことも大切です。分報や日報のチャンネルで各自の状況をゆるく共有しておく、質問や相談の専用チャンネルを用意する、相手の予定を見えるようにするなど、相談してよいという空気を仕組みでつくります。
ハードルが下がれば、ちょっとした確認や相談が滞らず、ミスや手戻りを防ぐことにもつながります。
5. 感謝と貢献を「見える化」する
働く場所がばらつく夏は、誰がどんな働きをしているか、誰が誰を支えたかが、互いに見えないまま流れてしまいがちです。
そこで、感謝や貢献を「見える化」することも、一つの方法です。
総務省の事例集では、ある企業が感謝の気持ちをチップで見える化し、対等な立場でのコミュニケーションや助け合いにつなげている取り組みが紹介されています。
気持ちを見える形にすることが、次のコミュニケーションのきっかけになり、社内の貢献状態の共有にもなっている、という例です。
こうした「感謝や貢献を見える化する」方法は、一つではありません。朝礼やチャットで意識的に「ありがとう」を共有する、社内SNSでやり取りを可視化する、といった手段があります。
その選択肢の一つに、感謝を可視化するデジタルサンクスカードもあります。
「GRATICA(グラティカ)」は、感謝をカードにして送り合えるサービスで、誰が誰に感謝を伝えたのかを後から確認できるため、離れていても埋もれがちな貢献を拾いやすくなります。
大切なのはツールそのものよりも、自社に合ったやり方で、感謝が残り、めぐる仕組みをつくること。それが、猛暑で働く場所がばらつく夏でも、チームのつながりを支える一助になります。
参考:
テレワーク時におけるコミュニケーション・マネジメント面の課題解決等に関する先進事例集(総務省)
6. まとめ
猛暑対策で一人ひとりの働く場所がばらつき、顔を合わせない日が増えやすい時期です。そのとき減りやすいのが、雑談や感謝といった非公式なコミュニケーションです。
調査でも、テレワーク環境では雑談や感謝、互いに気にかけ助け合う機会が減ると感じる人が多いことが示されています。
そしてこれは、チャットやWeb会議ツールを導入するだけでは埋まりません。ツールが実際に使われる習慣と、関わりが生まれる仕掛けがあって、はじめて機能します。
定例の軽い接点をつくる、雑談の場を意図的に設計する、感謝をこまめに言葉にする、相談のハードルを下げる。
そして、感謝や貢献を見える化して、離れていても支え合いが見えるようにする。
夏の一時的なばらつきを、チームのつながりを見直す機会に変えていく。
社員が安心して働ける環境を整えたい企業にとって、感謝を言葉にし、見える形にする習慣は、有効な選択肢のひとつといえるでしょう。