1. そもそも1on1の目的とは? 評価面談との違い
本記事では、パーソル総合研究所の定義にならい、1on1を「部下の成長支援を目的とした、上司と部下の定期的な一対一の面談」と捉えます。
その目的は、上司が評価を下したり進捗を管理したりすることではなく、部下の成長を支えることにあります。
企業によっては、信頼関係づくりやキャリア支援、状態の把握などが目的に含まれることもあります。
この点が「評価面談」との違いです。評価面談は、評価結果や目標達成度の確認を主な目的とすることが多い一方、1on1は部下の成長支援や内省を目的に、より短いサイクルで実施されるのが一般的です。
パーソル総合研究所の調査では、部下の成長度が高かったのは、月2〜3回以上・1回30分以上1時間未満で実施したケースでした。つまり1on1は、評価するための場ではなく、日常的に部下と向き合うための場といえるでしょう。ところが実際には、この目的が共有されないまま、進捗確認や業務報告の時間になってしまうケースが後を絶ちません。
1on1の実施率と、効果実感のギャップ
まず、現状を数字で確認しておきましょう。1on1は、ここ数年で多くの職場に広がった一方、「導入したのに手応えがない」という声も同時に増えています。
パーソル総合研究所が2025年に発表した「部下の成長支援を目的とした1on1ミーティングに関する定量調査」では、20〜59歳の正社員を対象としたスクリーニング調査で、直近半年に1on1を経験した部下は55.7%でした。1on1という手法は、すでに一定の広がりを見せています。
また、以前は1on1を実施していたものの、直近半年では経験していない部下も26.9%にのぼりました。1on1を一度経験していても、継続的に実施されているとは限らない実態がうかがえます。
さらに、面談に「満足している」部下は約半数(52.7%)にとどまり、効果を実感できていない部下も3割近くにのぼりました。制度としては導入したが、機能しているとは言い切れないというのが、多くの職場のリアルな姿です。導入の広がりと、手応えの薄さ。このギャップこそが、いまの1on1が抱える課題です。
参考:
パーソル総合研究所「部下の成長支援を目的とした1on1ミーティングに関する定量調査」
2. 1on1が失敗しがちな3つのパターンと共通点
1on1がうまくいかないと感じるとき、そのつまずき方には共通のパターンがみえてきます。現場で起こりがちな3つの失敗から、考えうる原因をたどっていきます。
よくある3つの失敗
1on1がうまく回らないとき、現場では次の3つのいずれかが起きていることがあります。
ひとつは、進捗確認だけの詰問になるパターン。「あの案件どうなってる?」「なぜ遅れているの?」と、いつのまにか業務報告会になり、部下は身構えてしまいます。
ふたつめは、沈黙。上司は「何でも話していいよ」と言うものの、部下は何を話せばいいか分からない。当たり障りのない会話で30分をやり過ごす。
みっつめは、ネタ切れ。最初の数回は話題があっても、隔週で続けるうちに「今日は何を話そう」と上司側が困りはじめる。
こうした1on1が続くと、部下のなかには「この時間、意味ないのでは」「正直、苦痛だからやめてほしい」という本音がたまっていきます。上司も部下も気が重い。それでは、続けるほど関係がすり減ってしまいます。
原因は「1on1だけ」で関係をつくろうとすること
これらに共通するのは、日常のコミュニケーションや相互理解の積み重ねが十分でないまま、1on1の時間だけで対話を深めようとしていることです。
普段ほとんど言葉を交わしていない相手と、隔週30分の面談だけで悩みや本音について話そうとしても、会話のきっかけをつかみにくいことがあります。
具体的な場面を想像してみてください。普段ほとんど会話のない上司と部下の1on1では、上司が「最近どう、順調?」「困っていることは?」と尋ねても、部下から「はい、まあ、なんとか」「特にないです」と返され、会話が続かないことがあります。
その結果、話題が尽きて沈黙したり、進捗確認や業務報告に戻ったりしてしまいます。
一方、日頃から「あの資料、助かったよ」「昨日の対応、よかったね」と声をかけ合っていれば、「この前のトラブル対応、落ち着いて対応していたね。あのとき何を考えていた?」と、具体的な出来事をきっかけに会話を始めることができます。
1on1で対話を深めるためには、面談の進め方だけでなく、その前提となる日常のやりとりにも目を向けることが大切です。
3. カギは、面談以外の日常の関わり
面談の内容を工夫することも大切ですが、前提として、日常のコミュニケーションと相互理解にこそ、1on1の質を左右する要因があります。
上司は「聞いている」つもりでも、部下には一方通行
パーソル総研の調査で興味深いのは、話す量のズレです。
上司は「部下のほうが多く話している」と感じている一方(42.5%)、部下は「上司のほうが多く話している」と感じていました(36.6%)。
上司は聞いているつもりでも、部下には一方通行に感じられている。この認識のギャップが、「詰問」や「沈黙」の温床になります。
成長を左右するのは「日頃の関わり」
もっとも示唆的なのが、部下の成長要因の分析です。
成長にプラスに働いていたのは、1on1のテクニックそのものよりも、上司が日頃から部下のアイデアを尊重し、業務の様子をこまめに気にかけ、励ましているかでした。加えて、1on1の場で「上司が本音を話してくれている」と部下が感じられることが、成長にもっとも強く影響していました。
言い換えれば、1on1の質は、面談の外側にある「日頃の関わり」が欠かせないということです。日頃から気にかけられている部下にとって、1on1は安心して本音を出せる場になります。逆に、普段まったく声をかけられていない部下にとって、隔週の面談はいきなり距離を詰められる不自然な時間になってしまうのです。
参考:
パーソル総合研究所「部下の成長支援を目的とした1on1ミーティングに関する定量調査」
4. 日頃の関わりの中心にある「承認」
では、「日頃の関わり」とは具体的に何を指すのでしょうか。先ほどの調査で成長にプラスと示されたのは、「アイデアを尊重する」「業務の進捗をこまめに確認する」「励ます」といった関わりでした。
これらに共通しているのが、相手の行動や貢献をきちんと認めること、つまり「承認」です。承認という考え方から、1on1を支える日常のあり方を掘り下げていきます。
承認とは、相手の存在や貢献を認めること
承認とは、大げさな評価やほめ言葉に限りません。「あの対応、助かったよ」「いつも細かいところまで見てくれているね」と、相手の行動や貢献に気づき、それを言葉にして返すことも承認といえます。
小さな積み重ねが、「自分はちゃんと見てもらえている」という安心感を生み、上司と部下のあいだに信頼の土台をつくります。
日頃の関わりが薄い職場ほど、この承認が不足しがちです。
承認を具体的に伝える方法の一つ「感謝・称賛」
とはいえ、「承認しましょう」と言われても、何をすればいいか分かりにくいものです。承認を具体的な行動に落とし込むとき、もっとも自然なかたちが「感謝」と「称賛」になります。
「ありがとう」と感謝を伝えること、「よかったよ」と称賛を伝えること。
これらは、相手の貢献を認めていることを、そのまま言葉にして届ける行為です。日常のなかで感謝・称賛が交わされていれば、それ自体が承認となり、1on1の土台を温めてくれます。
感謝・称賛は流れて消えがち
問題は、この感謝・称賛が、日常のなかでは残りにくいことです。
対面で伝えた「ありがとう」や「助かったよ」は、その場限りになりがちです。テレワークやハイブリッド勤務が広がった今、そもそも雑談や声かけの機会そのものが減りました。マネージャーは、チーム内で誰がどんな貢献をしているのかを肌感覚で把握しづらくなっています。
とりわけ見えにくいのが、「縁の下の貢献」です。
残業して対応してくれた雑務処理や、レビューで後輩を丁寧にフォローした時間は、目に見える成果の陰に隠れがちです。
先輩から後輩へ、経験から得たノウハウや過去の資料の共有。締め切り前に全員で黙々と進めた作業。いずれも数字に表れにくく、感謝・称賛が向けられないまま流れていきます。
承認されない貢献が積み重なると、部下のなかに「見てもらえていない」という感覚がたまります。その状態で迎える1on1は、どうしても防御的なものになる。
つまり、1on1のネタ切れや気まずさは、面談の問題である以前に、日常で感謝・称賛がただ流れて消えていることの現れでもあるのです。
5. 感謝・称賛を可視化・蓄積する:「GRATICA(グラティカ)」の活用
そこで有効なのが、感謝・称賛を、日常的に可視化し蓄積する仕組みです。それを実現するのが、デジタルサンクスカード「GRATICA」です。
GRATICAでは、社員同士がオンラインでサンクスカードを送り合い、その内容がタイムラインとして全体に表示されます。カードには「いいね」やコメントがつき、感謝が一方通行で終わらず、双方向に広がっていきます。1,500種類以上のカードから選べ、Slackやチャットツールとも連携するため、日々の業務の流れのなかで自然に承認が交わされます。
「感謝・称賛が形として残る」ことが、1on1の課題に具体的に効いてきます。
1. 1on1の「ネタ元」ができる
タイムラインには、日々の称賛の事実が具体的に積み重なっています。「最近どう?」と漠然と切り出す代わりに、「先週、◯◯さんから△△の件で感謝が届いていたね」と、事実にもとづいて部下をねぎらえる。1on1の具体的な話題を見つける材料として活用できます。
2. 見えにくい貢献が見えるようになる
縁の下の支えがカードとして残ることで、マネージャーはチームで何が起きているかを把握できます。1on1が「初めて知る場」ではなく「すでに知っていることを深掘りする場」に変わります。
3. 承認が続く仕組みになる
GRATICAは、強制ではなく、自然な感謝のやり取りを重視した運用ができます。「やらされ感」ではなく、同僚を思い出して感謝を言葉にする時間として使えるため、日常的な感謝のやり取りとして定着させやすい仕組みになっています。日常で承認が流れていれば、1on1は関係をゼロから立ち上げる場ではなくなります。すでに温まった関係の上で、より深い対話へと踏み込む。そのための「棚卸しと深掘りの場」として、日常の出来事を踏まえて対話を深めやすくなります。
6. まとめ
1on1がうまくいかないとき、私たちはつい「質問リストを増やそう」「傾聴を学ぼう」と、面談のやり方そのものを工夫しようとします。けれど本当に見直すべきなのは、その30分に至るまでの日常のほうかもしれません。
隔週30分という「点」だけで信頼を築こうとするから、無理が生まれる。日々の承認という「線」の上に1on1を乗せることで、面談は驚くほど自然なものに変わります。
日頃から相手の貢献を認める「承認」。具体的な形としての「感謝・称賛」が、日常的に交わされているか。
隔週30分の点だけで信頼を築こうとするのではなく、日々の感謝・称賛という線の上に1on1を載せることで、面談はお互いに充実したものに変わります。
「うちのチームには、どんな感謝が日々行き交っているだろうか」まずはその問いから始めてみてください。