1. そもそも離職防止とは? なぜ「早めの気づき」が大切なのか
離職防止とは、従業員が職場を離れてしまうのを未然に防ぎ、安心して長く働ける状態をつくるための取り組みを指します。
大切なのは、辞意を示した人を引き止めることがゴールではない、という点です。退職を伝えられてからの説得には限界があります。
まずやるべきは、辞めたいと思う理由が生まれてしまう前に気づき、先手を打っておくこと。
離職防止とは、辞めそうな人を探す取り組みというより、辞めたくならない状態を保つ取り組みだといえます。
離職が職場にもたらすもの
エン・ジャパンの試算によれば、入社から半年以内の早期離職が1件起きた場合、企業の損失は約640万円にのぼるとされています。
採用にかけた費用、教育に費やした時間、周囲がフォローに追われる負担を合わせると、決して小さな金額ではありません。
さらに見落とされがちなのが、残されたメンバーへの影響です。
一人の離職は業務の負担増だけでなく、身近な同僚が辞めたという事実そのものが、周囲の気持ちを揺らすことがあります。
厚生労働省の雇用動向調査でも、近年の離職率はおよそ14%前後で推移しています。
採用がますます難しくなるなか、一人ひとりの定着が持つ重みは増しています。だからこそ、辞める前に向ける一手の価値は大きいのです。
参考:
エン・ジャパン『エン転職』ユーザー調査2025
厚生労働省「令和6年 雇用動向調査結果の概況」入職・離職の推移
2. 離職の兆候がわかるサインとは?
離職の兆候は、ある日突然あらわれるのではなく、段階を追って少しずつ表面化していきます。ところが、多くの兆候リストで紹介されるサインは、実はかなり進んだ段階のものが中心です。
意思が固まった後に現れるサイン
たとえば次のようなサインは、すでに気持ちが固まった後にあらわれることが多いものです。
- 引き継ぎ資料を早めに整え始める
- デスクの私物を少しずつ持ち帰る
- 有給休暇の消化が急に増える
- 服装や身だしなみの雰囲気が変わる
- 社内の懇親の場に参加しなくなる
これらは比較的わかりやすい反面、気づいた時点では本人はすでに次の一歩を決めていることが少なくありません。引き止めの余地は、あまり残っていない段階です。
少し手前で現れるサイン
もう少し手前になると、遅刻や早退、欠勤が少しずつ増える、会議での発言や提案が減る、新しい仕事への意欲が感じられなくなる、前向きだった態度が受け身に変わる、といった変化があらわれます。
この段階なら対話の余地はまだ残っていますが、業務の表面にあらわれる変化のため、忙しさの中では見過ごされがちです。
離職を考えるきっかけのサイン
もっとも早い段階であらわれるのが、ちょっとした関係性の変化です。
感謝や「ありがとう」のやり取り、ちょっとした雑談、気軽な相談。そうした日々のつながりの輪から、少しずつ外れていく。
ランチや休憩をひとりで過ごすようになる。チャットの反応が、心なしか薄くなる。
表面上はいつも通りに働いているように見えるからこそ、このサインは見落とされやすいのです。
関係性の希薄化は、特定の場面で起こりやすいことも知られています。
成果を出す前で承認が届きにくい中途入社直後の数か月、人間関係がいったんリセットされる異動や組織変更の直後、貢献が周囲に見えにくいリモート中心の職種や間接部門、評価と評価のあいだの手応えを得にくい時期。
こうしたタイミングでは、大きな不満がなくても、つながりが薄れていきやすい傾向にあります。きっかけになるであろうサインに気づけるかどうかが、離職防止の分かれ目になります。
3. なぜ離職防止は後手になりやすいのか
早い段階で気づくのが難しいのには、構造的な理由があります。
離職に関するいちばん大切な情報が、本人からの自己申告に頼らざるを得ない、という点です。
エン・ジャパンの調査では、退職を経験した人の54%が、会社に伝えなかった本当の退職理由があると答えています。
そして、その本音の第1位は人間関係でした。
円満に辞めたい、角を立てたくないという心理から、面談で尋ねても、退職時にヒアリングをしても、いちばん大事な理由ほど口にされにくいのです。
人材・組織のコンサルタントであるNirit Cohen氏はForbes JAPANへの寄稿の中で、「従来のエンゲージメント調査について、従業員の感情の移り変わりは追えても、その人が仕事を見つめ直す瞬間を捉えきれていない」と論じています。
人はこれまでどう感じてきたかではなく、その瞬間の気持ちで動きやすいため、データの隙間にこぼれ落ちやすい、というわけです。
よく使われる把握の手段も、同じ弱点を抱えています。従業員サーベイは実施の頻度が限られ、結果がわかるのは少し後になります。
1on1は貴重な機会ですが、上司との相性や進め方に左右され、いちばん話しにくいことほど話題にのぼりません。勤怠や成果の数字は、悪化してから気づくものです。
どれも欠かせない取り組みですが、共通して自己申告か、後からわかるという性質を持っています。だからこそ、これらを補う、もう一歩早い視点が役に立ちます。
参考:
エン・ジャパン「本当の退職理由」調査2024
Forbes JAPAN寄稿(Nirit Cohen, 2026.4.28/エンゲージメント調査は「離職を決める瞬間」を捉え損ねる)
4. 離職防止の対策を5つの視点から考える
離職防止の対策を検討する上では、厚生労働省の雇用動向調査が示す離職理由の上位を参考に、一つずつ対応させて考えると進めやすいでしょう。
同調査では、個人的な事情を除くと、職場の人間関係、労働時間や休日などの労働条件、給料・待遇、仕事内容などが、前職を辞めた主な理由として上位に並びます。これらの理由に対して、打ち手を考えていきましょう。
① コミュニケーションを活性化する(1on1など)
人間関係の悩みに向き合うための、もっとも基本的な取り組みです。定期的な1on1や雑談などを通じて、本人が抱える不安やつまずきを早めに受け止めます。
進捗確認の場にとどめず、体調や人間関係、キャリアの迷いといった業務外の話にも触れられると、相談しやすい空気が育ちます。
関係性そのものに効く大切な視点ですが、対話の質は上司との相性や力量に左右され、いちばん話しにくいことほど表に出にくい面も残ります。
② 評価・キャリアの見通しを明確にする
評価や待遇への不満、将来への不安に対応する視点です。評価基準をわかりやすくし、フィードバックの場を設け、中長期のキャリアを相談できるようにすることで、正当に見てもらえているという納得感が生まれます。
一方で、評価への不満は本人から表明されにくく、気づいたときには気持ちが離れていることもあります。
③ 柔軟な働き方を整える
労働時間や休日といった労働条件、育児や介護との両立に対応する視点です。テレワークやフレックスタイム、時短勤務などの選択肢を広げることで、働き続けやすい環境が整います。
ただし、制度があっても使われなければ意味がなく、働き方の柔軟さだけでは人間関係の課題までは解けません。
④ エンゲージメントを可視化する
組織全体のコンディションを客観的に把握するための視点です。従業員サーベイなどを通じて、満足度やエンゲージメントの状態を数値でとらえます。
全体の傾向をつかむうえで有効ですが、たとえば半年に一度の調査では、その間に気持ちが離れてしまった人の変化は次の調査まで見えません。
実施の頻度が限られるため変化を後追いで知ることになりやすく、ここでも自己申告という性質は残ります。
⑤ 関係性そのものを、日々の行動から見つめる
①から④を補うものとして加えたいのが、この5つ目の視点です。いずれも大切ですが、これらは「本人が打ち明けてくれるのを待つ」か「何か起きてから気づく」かのどちらかになりがちで、もっと早い段階のサインは見つけにくいという弱点があります。
そこで、本人が言葉にする前の関係性の状態を、日々の自然な行動から継続的に見守ることで、これまで見えにくかった部分にも目を向けられるようになります。
参考:
厚生労働省「令和6年 雇用動向調査結果の概況」離職理由別離職者の状況
5. 「感謝の可視化」で関係性の変化に気づく|GRATICAという方法
5つ目の視点である「関係性そのものを、日々の行動から見つめる」を、どのように実践すればよいのでしょうか。ここでご紹介したいのが、デジタルサンクスカードサービス「GRATICA」です。
GRATICAは、職場で交わされる「ありがとう」のやり取りを、データとして可視化できるサービスです。
従業員どうしが感謝の気持ちをサンクスカードで気軽に送り合い、そのやり取りが自然と積み重なっていく。
半期に一度の評価フィードバックでは拾いきれない日々の行動や貢献を、サンクスカードを通じてその都度言葉にして届けられることも、GRATICAの特長です。
管理画面では送信数や受信数を確認でき、どの部署で感謝が多く交わされているか、社員どうしのコミュニケーションがどのような状態にあるかを把握できます。
誰から誰へ感謝が届いているか、その受信のうつり変わりや部署ごとの偏り、送り合いのバランスを見ることで、関係性の状態を日々続けて感じ取れるようになるのです。
年に数回の自己申告に頼るのではなく、毎日の自然なやり取りの中から、後追いではなく継続的に。①から④までの取り組みにはなかった視点として役立ちます。
ここで大切にしたいことが一つあります。GRATICAは離職を予測するツールではありません。感謝の増減が離職を言い当てるわけではないのです。
できるのは、これまで定点で見つめてこられなかった関係性の状態を、いつでも、誰でも見えるようにすること。定番の取り組みに、土台をつくっていく方法です。
6. まとめ
離職の本当の理由は、辞めるその瞬間でさえ語られにくいものです。だからこそ、語られるのを待つのではなく、その手前にある関係性の変化に目を向けることが、離職防止の実効的な一歩になります。
対策としては、コミュニケーションの活性化、評価やキャリアの明確化、柔軟な働き方、エンゲージメントの可視化といった王道を土台にしつつ、自己申告では見えにくい関係性を日々の行動から見つめる視点を重ねること。
そして離職率を下げる基本は、離職理由の上位に対策を対応させ、気持ちが固まる前の早い段階でサインに気づくことにあります。
まずは、職場に流れている「ありがとう」に、そっと目を向けることから始めてみませんか。