1. なぜモチベーション維持は難しいのか
まず押さえておきたいのは、モチベーションには波があるのが当たり前だということです。新しい仕事に取り組むときは高揚し、慣れてくると意欲が下がり、評価や成果によってまた上下する。これは人間の自然な反応です。
問題は、その上下を「個人の頑張り」だけで支えようとすることにあります。どれだけ意識が高くても、外発的な刺激だけで意欲を持続させることはできません。
金銭的報酬だけでは続かない理由
先述のパーソル総合研究所の調査が示すように、ベースアップは不満を解消する効果はあっても、やりがいや「認められている実感」を継続的に生み出す力は限定的です。賃上げで「不満がなくなる」ことと「意欲が湧く」ことは、別の問題です。
リモートワークが「見えない貢献」を増やす
さらに、テレワークやハイブリッドワークが定着した現在、状況は複雑になっています。
リクルートキャリアが2020年に実施した調査では、テレワーク実施後に特にスコアが低下した要素として、「仕事の重要性の実感」「上司や同僚からのフィードバック」が挙げられています。
つまり、テレワーク下では「自分の仕事が誰かの役に立っているか」「誰かがそれを見てくれているか」が、日常の中で感じにくくなりやすい。職場での偶発的なコミュニケーションが減ることで、日々の「承認」が届きにくい環境が生まれています。
参考:パーソル総合研究所「賃上げと就業意識に関する定量調査」(2025年)
リクルートキャリア「働くモチベーション」はテレワーク実施前後で変化した?
2. 「ありがとう」が、なぜモチベーションに効くのか
日々の「ありがとう」や「助かりました」という言葉は、単なる礼儀ではありません。人が前向きに動き続けるための、もっとも基本的な心理的欲求に応えています。
人が前向きに働き続けるためには、満たされたいという2つの心理的欲求があります。
ひとつは「有能感」。自分の力が役に立っている、貢献できていると感じたいという欲求です。「あなたのあの資料、本当に分かりやすかった」「先週の対応のおかげで助かりました」という言葉は、受け取った側に「自分の仕事は意味があった」という実感をもたらします。
もうひとつは「関係性」。職場の人たちと、尊重し合うつながりを持ちたいという欲求です。感謝を伝えられた瞬間、「自分はこのチームの一員だ」「自分の存在が誰かに届いている」という感覚が生まれます。
この2つの欲求を、「ありがとう」という一言は同時に満たします。パーソル総合研究所の調査でも、賃上げより「職場の人間関係・雰囲気の改善」がモチベーション向上要因として挙げられていたのは、まさにこの関係性の欲求が仕事のやる気と深く結びついているからです。
「言われた瞬間」だけでなく、蓄積が大切
ただし、感謝の効果は一時的なものにとどまりがちです。「さっきありがとうと言われたから、今日は頑張れる」という状態は、数日で薄れます。
モチベーションを継続的に支えるには、感謝や承認が「日々」「小さく」「見える形で」届き続ける環境が必要です。半期に一度の評価面談では間隔が空きすぎます。やる気が下がりかけたちょうどそのタイミングで、誰かからの「ありがとう」が届く仕組みがあることが重要です。
3. モチベーションが続く職場の3つの条件
感謝や承認を組織として循環させるには、具体的にどんな条件が必要でしょうか。
① 小さな承認が「日々」届いている
特別な成果が出たときだけ反応するのではなく、日常の小さな貢献に対する「ありがとう」が日々流れていること。
たとえば「先日の議事録、要点が整理されていてわかりやすかったよ」「急な依頼に即対応してもらい助かりました」といった、1on1や面談ではない場で何気なく交わされる一言など。
それがモチベーションの波を支える基盤になります。
② 貢献が「目に見える形」で残っている
口頭で交わされた感謝の言葉は、その場で消えます。リモート環境ではそもそも口頭のやり取り自体が少なく、貢献が記録されないまま誰の記憶にも残らない状態になりがちです。
感謝や承認がデータとして蓄積される仕組みがあれば、後から振り返ることができ、「自分の貢献は見られている」という安心感につながります。
③ マネージャーが「起点」になっている
マネージャーが日常的に「ありがとう」を伝える姿を見せることが、組織文化の醸成に大きく影響します。
たとえば、朝会の冒頭で前日の助け合いに一言触れる、1on1を「困りごと」だけでなく、「ありがとう」から始める、といった小さな実践が起点になります。
上司が率先して感謝を伝えている職場では、その姿勢がメンバー同士にも波及し、承認のやり取りが広がっていきます。
4. 「感謝の循環」を仕組みにするために
感謝や承認の大切さは多くの人が理解しています。ただ、それを個人の善意や偶然に任せたままでは、組織全体の文化として定着しにくいのも事実です。
そこで重要になるのが、感謝を「意識」に頼るのではなく、組織の仕組みとして設計することです。
GRATICAは、社員同士がオンラインでサンクスカードを送り合うことで、日々の感謝や承認のやり取りを可視化するサービスです。2026年4月からは、武蔵野大学ウェルビーイング学部長・慶應義塾大学名誉教授の前野隆司氏の監修のもと、月1回の組織サーベイ機能も搭載しました。
サーベイで組織の状態を「測る」。サンクスカードで感謝の行動を「動かす」。この両輪を回すことで、モチベーションの変化を組織として継続的に把握し、対処できるようになります。
「うちの社員は、最近やる気を保てているだろうか」。その問いに、データと日々の行動の両面から向き合える仕組みが、これからの組織運営には求められています。
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5. まとめ
モチベーション維持が難しいのは、個人の問題ではありません。上下があるのが当たり前のモチベーションを、個人の意欲だけで支えようとするから続かないのです。
調査データが示すように、金銭的な報酬と並んで「職場の関係性」がやる気に大きく影響しています。人が前向きに働き続けるために必要な「有能感」と「関係性」、この2つの欲求を日々の「ありがとう」は同時に満たします。
感謝や承認を個人の善意に任せるのではなく、仕組みとして組織に組み込むこと。それが、モチベーションの揺れを組織として支える、もっとも現実的な方法です。
「測る」と「動かす」を両輪で回しながら、社員一人ひとりのやる気を持続的に支える組織づくりを始めてみてはいかがでしょうか。