1. 組織サーベイを活用できていない実態
組織サーベイは、すでに多くの企業で実施されています。しかし、実施することと、結果を活用することの間には、思った以上に隔たりがあるようです。
全国6,504社が回答した「日本の人事部 人事白書2023」では、エンゲージメントサーベイを実施している企業は約4割にとどまることが報告されています。
一方で、関連サービスへの投資は拡大しています。ITRの調査によれば、従業員エンゲージメント市場の2024年度の売上金額は161億2,000万円、前年度比21.7%増となっており、人的資本経営やウェルビーイングへの関心を背景に、企業の投資は着実に進んでいることがうかがえます。
しかし、ツールを導入すれば自動的に組織改善が進むわけではありません。「日本の人事部
人事白書2024」では、管理職へのサポートを実施していない企業が約5割にのぼることも示されており、サーベイ結果を現場の対話や改善行動につなげる仕組みづくりには、まだ課題が残っていると考えられます。
組織サーベイを導入する企業は増え、関連ツールへの投資も進んでいる。けれど、その結果を組織の改善にどうつなげるかという段階で、多くの企業が立ち止まっている。これが現在の実態です。
参考:「日本の人事部 人事白書2024」(株式会社HRビジョン)
参考:ITR「従業員エンゲージメント市場規模推移および予測」
2. 組織サーベイの結果が活かしきれない背景
では、なぜ組織サーベイは活用しきれずにいるのでしょうか。いくつかの企業の話をうかがっていると、共通する背景が見えてきます。
状態を「点」でしか捉えられていない
年に1回、あるいは半年に1回といった頻度でのサーベイでは、組織の状態を「点」でしか捉えられません。
織は日々変化しているため、施策を打ったあとの変化や、季節・イベントによる揺れも見えにくくなります。気づいたときには次のサーベイの時期、ということも珍しくありません。
近年では、こうした課題への対応として、より短いサイクルで実施する「パルスサーベイ」の活用が広がっています。
日本の人事部の調査でも、パルスサーベイを実施している企業のうち約半数が「1ヵ月に1回」の頻度で行っており、組織の変化を継続的に捉えるアプローチが広まりつつあります。
結果と現場の行動がつながっていない
サーベイの結果が人事部門に集約されても、現場のマネージャーが、実施するための具体的なイメージが描けないケースもよく聞かれます。
スコアやグラフは共有されても、それが対話や改善行動までには落とし込まれない。この分断が、効果実感を遠ざけている一因です。
「日本の人事部 人事白書2024」では、エンゲージメントサーベイに関連して、管理職へのサポートを「実施していない」企業が約5割という結果も示されています。
サーベイの結果を現場で使いこなしていくうえで、マネージャー層の支援が十分に行き届いていない実態がうかがえます。
数値の背景にある「人と人との関わり」が見えにくい
組織の状態を整えるには、数値の裏にある「誰と誰がどう関わっているか」も含めて見ていく必要があります。
でなければ、結果から具体的な打ち手を導きづらくなります。
従来の組織サーベイは、満足度や帰属意識といった「個人の状態」を測ることが中心です。けれど、組織のパフォーマンスを支えているのは、個人の状態だけではありません。
困ったときに相談できる相手がいるか、日々の仕事ぶりが周囲に認められているか、感謝や承認が職場の中で交わされているか。
こうした人と人との関わり方も、組織の状態を左右します。
ダニエル・キム氏が提唱した「組織の成功循環モデル」では、メンバー同士の関わり方の質(同モデルでは「関係の質」と呼ばれる)が高まることが、思考の質、行動の質、そして結果の質へとつながっていくと整理されています。
一方、従来の組織サーベイは個人の点数を集計するため、人と人との関わり方までは捉えきれません。
誰と誰が支え合っているのか、感謝や承認が職場でどう循環しているのか。こうした人と人との関わりのデータが見えていないと、本質的な打ち手は描きづらいものです。
関連記事:
エンゲージメント向上が「意味ない」と感じる理由とは?変化が生まれる組織の共通点
なぜ生産性向上の取り組みは定着しないのか?成功企業が実践する「感情の見える化」
3. 組織サーベイを改善に繋げるために必要な視点
サーベイを「実施するだけ」で終わらせないためには、組織の状態をどう捉えるかという視点そのものを見直す必要があるかもしれません。
「個人の状態」と「人と人との関わり」を一体で捉える
組織の成果を生み出しているのは、個人の働きそのものに加えて、メンバー同士の信頼関係や心理的安全性、感謝や承認の循環といった日々の関わり方の積み重ねです。
これらは数値化しにくい領域ですが、ダニエル・キムやGoogleの研究が示すように、メンバー同士の関わりが良いチームほど、思考や行動の質が高まり、結果としてのパフォーマンスにもつながりやすいことが分かっています。
組織サーベイの活用を考える上では、個人の点だけでなく「人と人を結ぶ線」を一体で捉える視点が大切になります。
ウェルビーイングの視点で、組織の状態を捉える
組織の状態を捉えるうえでは、満足度や帰属意識だけでなく、日々の仕事の中でやりがいを感じられているか、周囲とのつながりを感じられているか、感謝や思いやりが交わされているかといった視点も大切です。
こうした要素は、近年注目されている「ウェルビーイング」とも深く関係しています。
ウェルビーイング研究の第一人者である前野隆司氏(武蔵野大学ウェルビーイング学部長/慶應義塾大学名誉教授)は、ウェルビーイングを構成する要素として、感謝、やりがい、成長、つながり、思いやり、健康などを挙げています。
これらの要素を高めることが、個人と組織のウェルビーイングの向上につながると指摘されています。これらは、個人の幸せだけでなく、組織の状態にも大きく関わっています。感謝やつながりがある職場では、相談や協力が生まれやすくなり、やりがいや成長実感があることで、仕事への前向きな行動にもつながります。
つまり、ウェルビーイングの視点は、個人の状態だけでなく、職場における人と人との関わりや行動の土台を捉えるうえでも重要な手がかりになります。
サーベイを「実施するだけ」で終わらせず、組織改善の起点に変えていくためには、満足度を測ることにとどまらず、感謝・つながり・やりがいといった要素を、継続的に・人と人との関わりを含めて見ていくことが鍵になります。
関連記事:
「健康に気をつけるように、幸せにも気をつける」幸福学の第一人者・前野隆司教授が語る、ウェルビーイングの本質
制度より先に「魂」を入れよ。前野隆司教授が語る、ウェルビーイング経営の本質とAI時代の幸せ
4. 組織改善のサイクルを支える3つの仕組み
ここからは、組織改善のサイクルを実際に回していくために必要な仕組みを、3つの視点から整理してみます。
これは、ウェルビーイング研究の第一人者である前野隆司教授に監修いただいた、GRATICAの新サービス「組織サーベイ」の考え方にも通じるものです。
継続的に状態を捉えるための、軽量なサーベイ
組織の状態は日々変化するものです。だからこそ、年1回の大規模調査だけではなく、月次など短いサイクルで定点観測していくことが大切になってきます。
実際、パルスサーベイを実施している企業の多くが月次の頻度を選んでいることからも、「続けられる調査」が重視されつつあることが分かります。
ただし、頻度を上げれば現場の負担も増えていきます。質問が多すぎたり、回答に時間がかかったりすれば、自然と回答率は下がり、データの信頼性も損なわれてしまいます。
続けられる設計であることも重要です。
GRATICAの組織サーベイでは、月1回・5問の軽量なアンケートを採用。
やりがい、人間関係、健康などの項目について、ハートの表現で直感的に回答できる設計とし、現場の負担を抑えながら、感情の動きを継続的に捉えていけるようにしています。
感謝のやりとりと組み合わせる、ウェルビーイング循環マップ
数値だけを見ていても、組織のどこに支え合いがあり、どこに孤立があるのかは見えてきません。
日々のコミュニケーションのなかで生まれる感謝のやり取りも含めて見える化することで、人と人との関わり方まで踏み込んだ把握ができるようになります。
GRATICAでは、サンクスカードのやり取りから得られる「感謝のデータ」と、従業員アンケートによる「意識のデータ」を統合し、組織の状態を「ウェルビーイング循環マップ」として可視化します。
- 横軸:仕事の状態
- 縦軸:人間関係の状態
- 4象限(共創/成長/充電/再生)で、部門・チームの状態を直感的に把握
たとえば、人事部門は組織全体の傾向の把握に、現場のマネージャーは自チームの状態確認や対話のきっかけづくりに活用できます。
「どこから手をつけたらいいか」が見えるようになることで、改善の優先順位が整理されていくでしょう。
結果を行動につなげる、アクションテンプレート
組織の状態が見えてきたとしても、「では何をしたらいいのか」が現場で描けなければ、改善はそこから先に進みません。
そこで大切になるのが、可視化された結果と改善アクションをつなげる仕組みです。
状態に応じた具体的なアクション例があらかじめ用意されていれば、マネージャーは経験や感覚だけに頼らず、根拠を持って動き始められます。
GRATICAの組織サーベイには、循環マップの結果に応じた改善アクションをテンプレートで提示する機能があります。
たとえば、人間関係は良好だけれど仕事への手応えが弱いチームには、業務上の貢献を称えるサンクスカードの活用シーンを提案するなど、毎日の感謝行動を起点にしたアクションへとつなげていけます。
関連記事:
サンクスカードが組織を変える。マネジメント視点で考える感謝の文化づくり
5. まとめ
組織サーベイは多くの企業で導入が進む一方、結果を組織改善に活かしきれていないという課題が、さまざまな調査から浮かび上がっています。
組織の成果を生み出しているのは、個人の状態だけではありません。メンバー同士の信頼関係や感謝・承認の循環を高めることが、最終的なパフォーマンスにもつながっていきます。
組織サーベイを活用するうえでも、満足度の測定にとどまらず、感謝やつながりといったウェルビーイングの要素を継続的に見ていく視点が、これからますます大切になっていくと考えられるでしょう。
「良くなった気がする」から、「なぜ良いのか、次に何をすべきかが見える」状態へ。
組織サーベイを、対話や改善につなげていく仕組みづくりが、これからの組織運営ではより求められていくのではないでしょうか。
GRATIACAも、そのサイクルを支える選択肢のひとつとして、組織改善を後押ししていければと考えています。